World Community Gridとは
World Community Gridは、私たちが普段使っているパソコン等が持つ計算能力の余剰分をインターネットを介して持ち寄って集結させることで、膨大な計算量を必要とする人類に有益なデータ分析をより早く完了させる取り組みです。
処理するデータは、人類に有益な科学研究として、例えば難病の治療方法の研究や降雨量の予測の研究に関するものなどがあります。現在(2024年8月)、World Community Gridでは、こちらのサイトで紹介されている以下の5つの研究が行われています。
- Smash Childhood Cancer: 小児がんの有効な治療法の発見をITで支援するプロジェクト
- Mapping Cancer Markers: さまざまな種類の癌に関連するマーカを特定することを目的とするプロジェクト
- Help Stop TB: 結核菌が持つ、薬剤等から身を守るための特殊な外殻がどのようにして結核細胞を保護するのかを解明することを目的とするプロジェクト
- Africa Rainfall Project: アフリカの局地的な降雨の高解像度のシミュレーションによる降雨予測精度の向上と、それによる農業の効率化や気候変動への耐性を高めることを目的とするプロジェクト
- OpenPandemics – COVID-19: COVID-19の治療法の発見と、将来のパンデミックにおいて治療法を迅速に探すのに役立つツールの確立を目指すプロジェクト
World Community Gridへの参加を通じて、これらの現在進行中のプロジェクトの全てに貢献することもできますし、自分が興味のあるプロジェクトを選んで、それに集中して貢献することもできます。
私が特に良いと思うのは、World Community Gridを通じて得られた計算結果を受け取った研究者の研究がどのように進展しているかが、World Community GridのサイトでNewsとして公表されている点です。
例えば、私はがん治療、特に小児がんの治療に興味があるので、Smash Childhood Cancerに注目していますが、この研究では、こちらのページで、定期的に研究状況などを知ることができます。
全て英語ですが、Google Chromeをお使いの方であれば、ブラウザ上で「右クリック」&「日本語に翻訳」で日本語にできます(専門的な用語はそれでも難しいですが)ので、自分の支援が治療法の研究に貢献できていることを感じられる貴重な情報源になると思います。
普段使いのパソコンでは、その計算能力をフルに使って計算することはまれです。World Community Gridに参加すると、そのような余剰能力を提供しますので、パソコンの計算量がその分増え、消費電力や発熱量が増えますが、それさえ受け入れることができれば、上記のような社会貢献が手軽に行えます。
なお、World Community Gridの計算に割り当てるCPU数や時間は自由に設定できます。自分がパソコンを操作していない時(電源を入れた状態で放置している時)だけWorld Community Gridの計算を行うような設定もできます。
World Community Gridに参加するためには、まず最初にBOINC(Berkeley Open Infrastructure for Network Computing)というソフトをインストールする必要があります。私はUbuntu 24.04LTSを使っていますので、その環境下でのインストールと設定をご紹介します。
Ubuntu 24.04 LTSへのBOINCのインストール
以下のコマンドで簡単にインストールできます。
$ sudo apt-get update
$ sudo apt-get install boinc
上記コマンドだけでサービスの自動起動の設定も完了しましたので、再起動のたびに自動でBOINCのサービスが立ち上がり、バックグラウンドで計算を開始します。とても楽ちんです。
BOINC Managerの起動
BOINCのインストールの際に併せてBOINC Managerがインストールされます。
BOINC Managerから、World Community Gridへの参加や、PCの計算能力の割当、貢献量の確認が行えます。
起動は、ターミナルから行う場合は、
$ boincmgr
で行うか、GNOMEのアプリメニューからBOINC Managerを選んで行えます。
GNOMEのアプリメニューから起動する場合に、
"Failed to launch BOINC Manager. Failed to change to directory "var/lib/boinc-client" (Permission denied)"
というエラーメッセージのポップアップが出てきて起動できないことがあります。その場合には、フォルダへのアクセス権を設定する以下のコマンドで解消できます。usernameは使用しているアカウントのユーザ名に置き換えてください。
$ sudo chmod g+r /var/lib/boinc-client
$ sudo usermod -a -G boinc username
これらのコマンドを実行したら、一度ログアウトした後、再度アプリメニュからBOINC Managerを起動してみましょう。以下のようなBOINC Managerのウィンドウが出てきたら成功です。
World Community Gridへの参加
BOINC Managerを使って、World Community Gridに参加します。
メニューバーから、「オプション」→「ツール」→「プロジェクトを追加」と進むと、プロジェクト追加のウィンドウが出ます。
プロジェクトがたくさん出てきますが、その中からWorld Community Gridを選択し、次へをクリックします。
利用規約が出てきますので、問題無ければ「利用規約に合意する。」を選択し、次へをクリックします。
World Community Gridのアカウント情報を求められます。アカウントを持っていない方は「いいえ」を選ぶと作成できます。事前にWorld Community Gridのサイトで作成することもできます。
私は既にアカウントを持っていましたので、アカウントのメールアドレスとパスワードを入力して、次へをクリックします。
このような画面が出たらプロジェクトの追加は成功です。終了をクリックしてウィンドウを閉じます。
このように表示されていれば、World Community Gridが無事にプロジェクトに追加されています。
チームに参加して貢献度ランキング上位を目指す
上で追加したプロジェクトのリストに「チーム」という項目があるように、プロジェクトへの貢献にはチーム活動があります。私は「Team 2ch」に入らせてもらっています。Team 2chは2004年から活動している歴史の長いチームで、こちらのWikiサイトで活動が紹介されています。
World Community GridにおいてTeam 2chに参加する方法は、こちらのページで案内されています。興味がある方は是非参加してみてください。チームに参加するとWorld Community Gridのマイ・チームのページでチーム活動の記録が確認できます。
BOINC Managerで割り当てるCPU数や時間を設定する
次にWorld Community Gridに割り当てるCPU数や時間を設定します。
BOINC Managerを起動し、メニューから「オプション」→「計算に関するプレファレンス」をクリックします。
「計算」タブでは、CPUの割当を設定できます。
私のPC(iMac mid 2007にUbuntu 24.04 LTSをインストール)では、100%のCPU(2コア)の50%のCPU時間を割り当てる設定にすると、ファンの回転数がだいぶ高くなり音がうるさくなります。PCで作業している時であればファンがうるさくてもあまり支障ないのですが、PCが置かれているのが寝室のため、作業をしていない時にはファンの音を静かにしておきたいです。なので、「コンピュータを使用中」は100%のCPUを割り当て、「コンピュータが使用されていない時」は50%のCPUを割り当てる設定としています。ただ、何か別の作業で重めの計算をする時には、BOINCの負荷は下げたいので、「BOINC以外のCPU使用率が超える場合には一時停止」を75%に設定しています。
設定を変更したら「保存」をクリックします。
「ネットワーク」タブでは通信量の制限をかけることができます。また、「ディスク」タブでは使用する保存領域の上限を設定できます。「日ごとのスケジュール」では、曜日は時間帯を限定して計算や通信を行う設定も行えます。私はデフォルト設定のままですが、これらのリソースに制限がある方は設定してみると良いと思います。
定期的に自分の貢献を確認する
以上でWorld Community Gridに参加して社会貢献するための設定は完了です。あとはPCをいつも通り使い続けるだけで、バックグラウンドでBOINCが解析を行って、結果を送り返します。
定期的に自分の貢献度を確認するとモチベーションが上がると思います。BOINC Managerの「プロジェクト」画面の左側にある「プロジェクトとウェブページ」というメニューから「My Contribution」をクリックすると、World Community Gridのサイトの自分の貢献度が集計されているページに飛ぶことができます。
みなさんのWorld Community Gridを通じた社会貢献が有意義なものになりますように!
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